1月13日の日記

2007年1月13日
会社の退職が決まった。残務の処理と引き継ぎをしつつ、次の仕事の準備を進めなければならない。「自分を荒波に放り出してみたい」という、ほとんどそれだけが退職の動機なのだが、不思議と晴れ晴れとした気分である。「やりたくねえことやってるヒマはねえ」「運命なんて自分で決めてやらあ」という感じだ。で、仕事がひまなのでぷらぷらネットサーフィンをしていたら、知人経由であるサイトを見つけた。5分後、そのサイト管理者にアポのメールを書き始めていた。それが年末のこと。昨日、その人と協同してでいくつかの仕事を進めていくことが決まった。多分「仲間」というのは、同じ「におい」がするのだと思う。先行きが、非常に楽しみである。どうなるかはわからんが、どうにかはなるだろう。

1月11日の日記

2007年1月11日
ご無沙汰しております。もろもろの事情により、更新できませんでした。

といっても特に書くことはないわけだが。

・人生の「無謀チャレンジ」がスタート。リスクをとらないものに成功はない。安定より自由。報酬より時間。どうなるかはワカランが、どうにかはなるだろう。がんばります。
『プレイボーイの人生相談』を読んでいます。すばらしすぎる。つべこべ述べずに、最初の質問と回答をご紹介します。

Q.わたしは、十八歳の女子学生です。愛の本質について悩んでいます。いままで、三〜四人、肉体関係のあった人がいますが、わたしの求める愛はありませんでした。いまも、一人の男性と、月に二〜三回会っているのですけど、別れたあとの何ともいえないむなしさは、いったい、なんなのでしょうか! 愛の本質とはなんでしょうか!

A.チンピラ同士が裸体をくっつけ合っても、愛の本質など、判りはせん。愛するということは、肉体の結合とは、無関係だ。魂というものに就いて、まず考えなければならないのだが、君には、それを考える思考能力はないらしい。十八歳にしかならないのに、もう数人の男と関係するとは、おどろき入ったるズベ公ぶりだが、行為そのものが、どうせ、二分か三分の動物的なエンヤコラに相違いない。だから、君は、セックスさえも知っていないのだ。まず、阿呆らしい性行為を中止して、愛するということは何か、を知るために、名作といわれる古今東西の恋愛小説を読みたまえ。魂の美しさ、苦しみ、清らかさ、そして浄化を知るがよい。

柴田練三郎先生の回答である。円月殺法ばりの切れ味だ。続いて、もうひとつ。

Q.十八歳の高校生です。私は、入れると思った大学に落ち、どうしようかと非常に悩んでおります。
 それで思い悩んだ末、自殺することに決定いたしました。しかし、死ぬ前に世の中の人に何か役に立つことをしたいと思いますが、どんなことが本当に役立つとお思いですか? 先生が世の中の人の代表者と思ってお答えください。

A.自殺結構。日本には、人口が多すぎる。死にたい奴は、どんどん死ぬがよろしい。死ぬ、ということは、いかにも、おそろしいように思われるし、むつかしいように考えられるが、なに、かんたんなことだ。疾走する自動車か電車めがけて、わが身をおどらせればいい。死にたいやつは、死ね。大学を落ちたぐらいで、がっかりして自殺したくなるような奴は、生き残っても、日本のために役には立たん。ロクな大人にはなれん。そういう腰抜けが、死ぬ前に、世の中のためになるようなことをしようと考えるのが、おこがましい。なにも、できはせん。はやく、死んでしまえ。こう云われて、くやしかったら、生きてみろ!

ぐうの音も出ませんね。

Q.十九歳の浪人。高校時代からそうであったが、近頃病状が悪化したように思うので、先生の一刀両断のもとに俺の病巣を切りとってもらいたい。でないと勉強もおちついてやれやしない。その部分とはーー女性恐怖症だ。高校時代はクラスの女の子と話なんかしていたので少しは抵抗力があったが、近頃はガールフレンドもいないので、俺の女恐怖症は悪化するばかり。このままではえらいことになる。元赤線へ女を買いに行ってこの迷いをふっきろうと思ったが、やる前に終わっちゃって結局まだ童貞だ。何とかしてくれ!

A.無礼な言葉遣いをあらためろ、この青二才! 十九歳の浪人、などという存在は、いわば、ビールの泡みたいなもので全く無意味なのだ。まず、自分が、そういう無意味な存在であることを考えるがいい。女性を知りもしないで、女性恐怖症とは、きいてあきれる。つまり、はやく童貞をすてて、女性というのはこういうものか、知りたいーーそれだけのことだろう。こんな人生相談で、何とかしてくれ、とわめいても、はじまらぬ。オナニイでもやっていろ。たわけ者!

といった人生相談がえんえん続くのであります。すばらしい。

12月31日の日記

2006年12月31日
忘年会も無事終了。参加いただいた皆様、お疲れ様でした。来年もよろしくお願いします。

実家におります。

・もちをついた。
・中学時代の友達と麻雀をやったところ、リーチ一発東ドラ10であがった。来年は良い年になりそうである。
・甥っ子とプロレスごっこなどをしています。
2007年の抱負を列記します。

・人生ロック魂を忘れてはならんと思うので、「無謀」にトライします。
・とはいえ、生活はきちんとする。毎日早寝早起き。なるべく自炊。
・健康一番。週に一回は最低5キロ走る。
・海外旅行に行く(ほぼ10年ぶりだ)。ハワイとインドに行きたい。
・面白そうなことは全部やる。会いたい人には会いに行く。
・タバコをやめる。先日、コンビニ前にいた女子高生に心底いやがられたので。
・落語に手を出す。写真の腕を磨く。
・自分独自の「システム」を確立する。
・周りの人に感謝と尊敬を忘れない。
・隙あらばダジャレを言うことを心がける。
・たまにはBRIOっぽいことにもチャレンジする。
・少しだけオシャレを考える。人は見かけが9割と言うので。
・映画を沢山見る。

そんなところかな。
こういうことを考えていると、とても楽しい。

12月26日の日記

2006年12月26日
ネット上の発信者情報、同意無しで開示へ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061226-00000010-mai-soci

まあ、当然の流れだろうな。

いっきに数が増える弁護士にしてみれば、ほとんどのケースで勝てるだろうから、それ専門に訴訟を引き受ける人も出てくるのではあるまいか。言論の自由には、責任がともなう。このリアル社会では当たり前のことが、ネットではこれまでまったく無視されていたわけで、馬鹿な2ちゃんねらーが何人か見せしめになるのだろう。

12月25日の日記

2006年12月25日
クリスマスイブは、スーパーで鍋セット(598円。2〜3人前)を買ってきて、一人で食いきった。普段少食な私にとっては珍しいことである。鍋といえば大勢でわいわい食べるものの代表のように思われているが、一人で食っても実に旨いものである。タラ、鯛の頭なんかを昆布だしでぐらぐら煮て、適当に野菜や豆腐をぶち込み、あまり味付けせずに、ポン酢とゆず胡椒で食すのが私の好みだ。

それとこの本を読んだ。
http://www.bk1.co.jp/product/2180671/review/130702

「広告はインチキだから嫌いだ」と本当のことを言ったクリエイター(という言葉も気にくわない)が、かつては日本にもいたのだが、有る夜に階段から落ちて亡くなってしまった。またああいう人が出てきて欲しいものだ。

12月22日の日記

2006年12月22日
まことに興味深い論考だ。

http://www.poplarbeech.com/chotto/chotto.html
「記録されたものだけが記憶される」という。
よって、日曜のことを記録しておく。

いわゆる一つの「お食事会」に行ってきた。両親同士の顔合わせ、というやつである。場所はホテルの料亭個室を予約した。

将来の妻(照れるぜ)は、振り袖を来て現れた。本人から事前に、「まるで七五三です」と聞いていたのだが、私の目には控えめに言って、山一面の紅葉よりも艶やかに映ったのだった。人はそれを錯覚と呼ぶのかもしれないが。

進行はうちの兄がやった。親父が「ようやく肩の荷が降りました」と言っていた。ご心配おかけしました。

その後は和やかに歓談。うちの親父が緊張のせいだろう、はやく酔っぱらっちまおうとぐいぐい飲んでいた。先方のお父上もお酒と美味しい食べ物が好きということで、手打ちそばの話などで盛り上がっていた。うちの実家はド田舎なので、半ば趣味で味噌などを手作りしており、今度手打ちのそばを送ることになった。

宴たけなわの頃、ハリー・ポッターに感じが似ている弟君が、とっておきの手品を見せてくれた。手に丸めたティッシュペーパーをいくつか握りしめ、両手の間を移動させる。すると、本来であれば右手に3つあるはずなのに、1つだったり、2つだったりするのである。弟君は最後に私のところへやってきて、「ティッシュペーパーを開いてください」というので開いたところ、「結婚おめでとう」と書かれてあった。これには感激した。弟君はやんやの喝采を受けていた。あの子は将来、マジシャンになればいいと思う。

そんなわけで、着々と進行しております。ふう。

12月15日の日記

2006年12月15日
後輩から電話がかかってくるたび、

「おお、ちょうどいま書いてるよ(1字も書いてない)」
「ちょっと待ってて、あと少しだから(もちろん1字も書いてない)」
「あと30分後くらいかな(当然のことながら1字も書いてない)」

という具合に、一週間ほどのらくら逃げていた2500字の原稿を、本当のデッドラインが近づいてきたので、1時間ばかりでさらっと書き上げメールで送る。書き始めると楽勝なんだが、実際書く気になるまでが長い。後輩には謝っておこう。すまん。だが、遅い書き手をとことん地の果てまで追いつめるのも、君の職務における重要な仕事だ。これを糧にがんばってくれたまえ(超勝手)。

うーむ。ブログの文章は誰に頼まれたわけでもないのに書く気が起こるが、仕事で書くのはどうも面倒くさい。
なぜだろうか。

多分、仕事の場合、書き上げたときのデキが、書く前から分かっているからだろうな。
やる前から結果が分かっていることに対しては、どうもやる気が起こらない。

ここ3年間で、人からやれと命じられたことを、素直にやれなくなってしまった。
困ったことではある。

12月14日の日記

2006年12月14日
『「ひとつ、村上さんでやってみるか」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける490の質問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?』を読んでいる。

かなりのボリュームなので、なかなか読み進まないのだが、それでも3分の2くらい読了して思うのは、「この人はなんてまともなんだろう」ということである。「まとも」という言い方が正しいのかどうか分からないけれど、考え方がすごくまっとうだ。人間というのは多かれ少なかれ、自分も含めみんなある程度おかしいんだと思う。そのおかしさを常に自覚して、どれくらい自分がずれているかをいつも検証しながら生きることが、きっと大切なんではないか、というようなことをひしひし感じる。何百とある村上さんへの質問の中には、ずいぶんヘビーな内容のものも含まれている。それに対する村上さんの返答は、深い優しさとユーモアに裏打ちされており、きっと質問者は少しだけ、でも確実に救われただろうな、と感じた。

私自身、以前は、「けっ、ムラカミなんて」と思っていたくちなので、そういう人は世の中にたくさんいるだろうと思うのだが、アンチの人はこれから読んでみると良いのではなかろうか。きっと「お?けっこうおもしろいかも」と思うはずである。あと、妙にいらついてたり、何かに腹が立ったりしてる人にも、この本をお薦めしたい。幸せか不幸せかなんて、結局のところ自分自身のこころの状態次第なのであり、「くだらんことに悩んでないで、とっとと楽しいことをしよう」という気分になると思う。ならなかったらすまんです。

クリスマスがひまである。
馬鹿企画に参加する予定だったのだが、参加人数が少ないそうで、延期になってしまった。
落語でも聞きに行こうかしら。

12月13日の日記

2006年12月13日
うーむ。腹立ち半分で書いた文章は、読み返して後味がよろしくないね。ということで書くこともないのだが、とっとと更新しておこう。

うちの近くの素晴らしいラーメン屋について書こう。

そこのラーメン屋は、60歳くらいの女性が基本的に一人で切り盛りしている。「基本的に」と書いたのは、週のうち3日間は、娘さんが手伝いに来るのである。そしてその娘さんの娘さん、つまり孫もたまに手伝っている。孫は中学生くらい。かいがいしく手伝う姿がとてもよい。

そこのラーメンはとても旨い。スープは魚から出汁をとった醤油味。具は叉焼、のり、メンマ、もやし、肉みそ。さっぱりした味に肉みそのこくがマッチしている。麺は細い縮れ麺。それで550円だ。

それ以外のつまみもたいへん充実しており、おでんや煮込みが日替わりで作ってある。生姜焼き定食やなす炒め定食が750円。ビールは450円、生レモン杯が350円という安さ。いつも近所のおじさん、おばさんでカウンターは賑わっている。近所の社交場として機能しているのである。

なにより、店の雰囲気が温かい。私も通っているうちにすっかり顔を覚えられ、「お兄さん、サービス」とかいってミカンをもらったりするようになった。

家の近くに、こういう飲食店があるかどうかは、けっこう生活の質に関わる大事なことだと思う。

これから行くことにしよう。友人の皆さん、今度連れて行きます。本当にいい店なんだよ。

12月13日の日記

2006年12月13日
現在、外部の業者と制作を進めているブツがあるのだが、これがややこしい。
というのは、その業者とうちとの関係が、微妙に業者の方が上なのである。
「先生にお願いしている」という立場なわけだ。

そのため、現場の若造までが上に立ったような物言いをするのが気にくわない。
「なんで締め切りに1時間遅れるのを連絡してこないんですか。説明してください」
とか怒られてもな。「忘れてた」としか言いようがない。

まったく。
そういえば俺が退職を決意したのは、その先生が泊まるホテルの部屋が狭いとかの理由で、市内中のホテルに電話をかけさせられたときのことだった。

「いったい俺はこんなくだらねえことのために生まれたのか?」と思ってしまったわけですね。

うん。わかっている。
自分の性格には、だいぶ問題がある。
少なくとも、ある程度の規模と歴史があって、ヒエラルキーが確立した組織で働くのは、根本的に向いてない。
無駄に反抗的なところとか、いわゆる中二病というやつですね。
昔ならば、下駄職人とか、その手の仕事(つまり自分の裁量ですべてが判断できるというのが肝要)に就くべきだったのだろう。

仕事するか。
友人の新聞記者、Kの結婚式に招待され、都内ホテルに行く。冒頭のスピーチから爆笑、サプライズゲストに欽ちゃん(本当)、空手家の先輩によるバット折りと正拳でのブロック粉砕(「結婚式でバットを二つに折るとは何事か、と思われるかもしれませんが、諸悪を断ち切り災いを打ち砕く、ということです」と説明)、世界三大応援歌(笑)の一つ、中央大学応援部の応援(あと二つは英国・ケンブリッジ大学とオックスフォード大学とのこと。ウソこけ笑)、コンビ漫才、友人によるプロ顔負けのバンド演奏(台本に「やおら客席から『新郎も歌え』のコール。新郎「仕方ないなあ」という表情でステージに向かうとあった)、などなど、異様に盛りだくさんの内容で、久しぶりに腹が痛くなるほど笑った。小生もスピーチを頼まれ、新郎がいかにモテなかったかを中心に3分ほど話した。あれほど充実した結婚式を見てしまうと、もうやりようがないね。K、おめでとう。また遊びに行くよ。
近未来通信のサイトを見てみた。

http://www.kinmirai.co.jp/

トピックスのところからテレビCMが見られる。

うーむ。

これは、さすがに、騙されるかもしれんな。

しかしその場合、広告代理店とテレビ局は、詐欺の片棒を担いだということにはならんのだろうか。

ひどい話だ。

と、思ったら、とっくに同じ指摘がされてた。
http://www.janjan.jp/business/0612/0612055927/1.php

「マスゴミ」と言われるのも、致し方ない。
「姉ちゃんの詩集」12月20日発売。

http://moura.jp/liter/neechan/

知らない方はぜひ下記を読んで欲しい。偉大な才能だと思う。

http://www20.atwiki.jp/chinya/pages/12.html

クリスマスプレゼントに最適だ。
9割9分ベストセラーになると思う。
何より、詩が本物だ。

12月5日の日記

2006年12月5日
「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」読了。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4166603302

たいへん面白かった。最近、読む本すべて面白い。まあ、面白い本しか買わないから当たり前なんだけど。しかし読む前から面白いことが分かっていても、実際読んでみてやはり面白いのだから、そういう本を書ける人はたいしたもんだ。読むまで面白いかどうか分からなくて、読んでみたらすごく面白かった、という本の方が嬉しいのかもしれないが、残りの人生で読める本の量を考えると、ついつい間違いない本にばかり手を出してしまう。少し冒険をしないといけない。

「硫黄島からの手紙」が早く見たい。
クリント・イーストウッドといえば、ルパンの声をつい思い出してしまう。
昨夜、筑紫さんのインタビューを見ていて、なんだか変な感じがした。

帰って寝よう。
日曜。

朝、テレビを点けたらホリエモンが出ていて驚いた。
ちょっと油っけが抜けた感じを受けた。

自宅近くの古本屋を探索。
ここは店構えは小さいのだが、実に良い本が驚くべき価格で売られている「掘り出し物」の古本屋である。
30分ほど棚を子細に見て回り、購入したのは次の6冊。

「イギリスはおいしい」林望
「僕が猫語を話せるわけ」庄司薫
「ポートレイト・イン・ジャズ」村上春樹・安西水丸
「冷血」カポーティ
「実録・本の雑誌血風録」椎名誠
「アンネの日記 完全版」

これで450円。
マクドナルドのセットより安い。
いずれもカバーがついた美本である。
たいへんうれしい。

その後、近くに住む友人夫妻に招かれ夕食をご馳走になる。
土産に近所にある昔ながらの豆腐店で買った絹ごし豆腐とワラ納豆を持って行く。
おでんとタケノコの煮込みがたいへん美味だった。ありがとう、ありがとう。
まことにコスト・パフォーマンスに優れた、幸福な休日であった。
昨日書いた文章に関連して、言葉の腐りやすさということについて考える。今年の流行語大賞は「イナバウアー」と「品格」に決まったそうだが、どちらの言葉にもすでに微かな腐敗の兆候が現れているのが、流行語というものの持つ悲哀を感じさせる。来年の今頃には、「ああ、そんな言葉もあったっけな」と多くの人々が思い出すことだろう。言葉とは、その語を思念する人間の数に反比例して、生命力を失っていく性質を持つのかもしれない。

だが時折、まれにだが、何百万、何千万という人間の口から発せられ、何億枚もの紙に印字され、数えきれぬ程の思念の海に浮かびながらも、何十年にも渡って生命を失わぬ言葉が生まれることがある。例えば「団塊」「平和ぼけ」「オタク」「根暗」「援助交際」といった言葉だ。「だっちゅーの」や「おっはー」、最近では「フォー」だの「なんでだろー」といった言葉が、ほとんど一瞬で腐敗し死滅したのに比べると、これらの言葉が持つ生命力の強靱さにはいささか興味を覚える。

生き残った言葉を眺めるに、それら強靱な生命力を持つ言葉は全て、自身の中に死や苦しみや差別や情欲や老化といった、負のイメージを内包していることに気づく。おそらく、人間の生と死が一つでセットであるように、言葉もまた本来は、その語の中に明と暗、陰陽を併せ持つものなのだろうと思う。
ブックオフの百円均一棚に、藤原新也氏の「幻世」を見つけ、即座に購入する。ここ2日間、エッセイ一つずつを丹念に読み込んでいるが、20年前に書かれた文章であるにも関わらず、いささかも古びていないことに驚く。例えばそれは、「デザインを憎め」という題の、こんな文章である。

デザインを憎め

 普段はあまり物を買うことに執着がないが、困ったことに、ある一つのものに関しては浪費癖がある。
 冬がちかづくとなぜか無性にジャンパーが欲しくなるというやつだ。日本に住みついていても、旅の途上にあっても、これまで何着のジャンパーを買っては捨てて来たか数え切れない。
 今年の冬も、早々と十一月頃からそのジャンパー中毒が出て、それ相応の金をポケットに突っ込んで街を徘徊した。こうして街を巡りながら毎年想うことがある。年を追うごとにジャンパーらしいジャンパーが街から姿を消しつつあるということだ。ジャンパーらしいジャンパーとはシンプルで機能的であること。マテリアルが外界の変化や抵抗に耐え、長持ちし、汚れや、破れたあとの縫い目も気にならないこと、等々、だが、このハードウェアーであるべきジャンパーが機能、マテリアルとも年々ひ弱になっていって、いくら捜してもこれといった感じのものに行き当たらない。デザインの種類が少ないかというとそうではなく、逆にデザインだけはむしろ毎年増えている。デザインが増えた部分だけ、ジャンパーの基本的な機能美がかえって忘れられ、失われて行きつつある。これはジャンパーのみにあてはまることではなく、今日の商品のほとんどすべての指向にあてはまることのように思える。
 例えば先日、仕事場の近くにある芝浦工業大学の生協に封筒を買いに行ったのだが、十種類近く店頭にあったものの中から、ついに使いたいと思うものを見い出すことができなかった。
 十種類近くある封筒の表や裏に、ことごとく英文字、あるいはイラストで何らかの「デザイン」が施されているのだ。紙質もやたら色で染めたものが多い。要するに、「よけいなお世話デザイン」が過剰に氾濫しているばかりで、私が欲しいと思っていた、「ただの封筒」が見あたらない。私は西部グループが出している無印良品のようなものを求めているわけではない。あの無印というのも鼻につく。私は、むかしから消費者の動向とか、デザインとかいったものをほとんど考えず、のんべんだらりと素朴に作っていた「ただの封筒」が欲しかったのだ。
 これは一種の現代病の鏡みたいなものだ。昨今の商品においてはある基本的な形態を、いかに自らが使いこなし、個性化させるか、という人間と物との間に関わる創意がもぎとられ、すでにあらかじめ、他の人の手によってデザイン化され、疑似個性化されたどれかのアイテムを選ぶだけのシステムになっている。このような「物」に慣れた人間の想像力が萎え、気力衰えて行くのも仕方がないことである。
 物を買う時には「よけいなお世話デザイン」を憎んで避けろ。それはあんたをインポにしてるんだ。

(後略)

これ以上の引用は、引用の範囲をとっくに超えるので差し控える(万一、藤原氏ご本人がここをご覧になり、不快を感じられたらすぐに消します)。

この文章は二十年の時を超えてなお、太い木の幹のような堅牢さを失っていない。挑発する力も変わらない。筆者の視点はいつも「小さな物」に向かう。「小さな物」とはこの文章でいえば「ジャンパー」であり「封筒」である。世間のほとんどの人がどうでもよいと見過ごす「小さな物」の変化に、この筆者は時代の病の兆候を読み取り未来を予言する。そして多くの場合その「予言」はどんな評論家よりも正鵠を得る。この末法の世に正気を保って生きるにはどうすればよいか。筆者はいつも次のように言っているように感じる。視点を変えろ。大勢になびくな。一人でいろ。

それにしてもこの本が絶版なのはもったいないことだ。今こそ世に問うべき書だと思う。

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