94、5年から2003年の12月まで、高田馬場という町に、10年近く暮らしていた。
学生時代から、社会人にかけて、二十代のほとんどをそこで過ごした。
当時借りていたアパートは、木造二階建て。駅から10分ほど歩いたところにあり、
2畳に満たないキッチンと、6畳のリノリウムの床の部屋。それにユニットバスがついただけとう小ささだったが、家賃はそれでも7万円かかった。
窓は南向きで、日当たりは悪くなかったけれど、エアコンの調子が悪くて、夏は暑く、冬は寒い部屋だった。社会人になってからは激務薄給の生活で、ほとんど寝に帰るだけだった。
いつだったか連休をつぶして行われた(誰一人行きたくない)箱根への社員旅行から帰ってきた日の夕方のこと。
家で一人、煙草を吸いながら缶ビールを飲みつつ、見るとはなしにテレビを眺めていた。
やりたくもない宴会芸、役員に順繰りで酌、つくづくバカらしく疲れるだけの社員旅行から戻ってきて、またすぐ翌日から仕事が始まる。
25歳ぐらいだったはずだ。当時、夢とか希望とか、あんまりそういう前向きなものは持ち合わせていなかったような気がする。
「明日からまた仕事か。だりいな」とか考えていたときに、家のチャイムがなった。
実家から宅急便でも送ってきたのかも、と思って「はい」とドアを開けたところ、ひげを生やした初老の小さな男性が立っていた。
「こんばんは、NHKのものです」
そう言って男性は、「NHK」と書かれた身分証明書を眼前に掲げた。
(しまったなあ、開けなきゃ良かった)と思ったが、時すでに遅し。部屋からはテレビの音が漏れ聞こえているから、「テレビ無いので」という言い訳も通用しない。
詳細は省くが、少しの押し問答の結果、結局折れて、受信料を払うことにした。
会話の中身は忘れたけれど、その初老の男性が、話しているうちに良い人だと思い始めて、「何だか悪いな」という気になったのだと思う。
寒い夜に、嫌がられる仕事でたいへんだろうな、と思ったので、「じゃあ3年契約しますよ」と契約書に判子をついた。
するとその初老の男性は、
「ありがとうございます。あなたは若いのに、なかなかしっかりした考えを持っている。御礼にちょっと、手を見せてもらえませんか」
と言った。
「手、ですか?」
「ええ。ちょっと手相を拝見できれば」
何だか面白いことになってきた。普段占いなんて、まったく信用していないが、せっかくなので見てもらおうか、と思い、手を出した。
男性はじっと私の手を見た。
「2年後に、人生の転機が訪れます。それに乗るかどうかが、その後の人生を決めるから、今のうちからしっかりと準備をしておいてください」
と言われた。
「本当ですか?」
「ええ、私はこう見えて、昔は鏡リュウジと並ぶ実力を持つ占い師と言われていた時代があったんです。だいぶ前の話ですけれどね。忘れないでください。2年後です」
そう言って、男性は辞去した。
で、2年後なにかあったかというと、別に何も無かったんだなこれが。
相変わらず、夢や希望関係とは、無縁の毎日を、そこから5,6年ぐらい過ごすことになる。
あのオッサンのヒマツブシだったんだろうな、きっと。
当時の家のまわりをグーグルストリートビューで見てたら、ふと思い出した記憶でした。
学生時代から、社会人にかけて、二十代のほとんどをそこで過ごした。
当時借りていたアパートは、木造二階建て。駅から10分ほど歩いたところにあり、
2畳に満たないキッチンと、6畳のリノリウムの床の部屋。それにユニットバスがついただけとう小ささだったが、家賃はそれでも7万円かかった。
窓は南向きで、日当たりは悪くなかったけれど、エアコンの調子が悪くて、夏は暑く、冬は寒い部屋だった。社会人になってからは激務薄給の生活で、ほとんど寝に帰るだけだった。
いつだったか連休をつぶして行われた(誰一人行きたくない)箱根への社員旅行から帰ってきた日の夕方のこと。
家で一人、煙草を吸いながら缶ビールを飲みつつ、見るとはなしにテレビを眺めていた。
やりたくもない宴会芸、役員に順繰りで酌、つくづくバカらしく疲れるだけの社員旅行から戻ってきて、またすぐ翌日から仕事が始まる。
25歳ぐらいだったはずだ。当時、夢とか希望とか、あんまりそういう前向きなものは持ち合わせていなかったような気がする。
「明日からまた仕事か。だりいな」とか考えていたときに、家のチャイムがなった。
実家から宅急便でも送ってきたのかも、と思って「はい」とドアを開けたところ、ひげを生やした初老の小さな男性が立っていた。
「こんばんは、NHKのものです」
そう言って男性は、「NHK」と書かれた身分証明書を眼前に掲げた。
(しまったなあ、開けなきゃ良かった)と思ったが、時すでに遅し。部屋からはテレビの音が漏れ聞こえているから、「テレビ無いので」という言い訳も通用しない。
詳細は省くが、少しの押し問答の結果、結局折れて、受信料を払うことにした。
会話の中身は忘れたけれど、その初老の男性が、話しているうちに良い人だと思い始めて、「何だか悪いな」という気になったのだと思う。
寒い夜に、嫌がられる仕事でたいへんだろうな、と思ったので、「じゃあ3年契約しますよ」と契約書に判子をついた。
するとその初老の男性は、
「ありがとうございます。あなたは若いのに、なかなかしっかりした考えを持っている。御礼にちょっと、手を見せてもらえませんか」
と言った。
「手、ですか?」
「ええ。ちょっと手相を拝見できれば」
何だか面白いことになってきた。普段占いなんて、まったく信用していないが、せっかくなので見てもらおうか、と思い、手を出した。
男性はじっと私の手を見た。
「2年後に、人生の転機が訪れます。それに乗るかどうかが、その後の人生を決めるから、今のうちからしっかりと準備をしておいてください」
と言われた。
「本当ですか?」
「ええ、私はこう見えて、昔は鏡リュウジと並ぶ実力を持つ占い師と言われていた時代があったんです。だいぶ前の話ですけれどね。忘れないでください。2年後です」
そう言って、男性は辞去した。
で、2年後なにかあったかというと、別に何も無かったんだなこれが。
相変わらず、夢や希望関係とは、無縁の毎日を、そこから5,6年ぐらい過ごすことになる。
あのオッサンのヒマツブシだったんだろうな、きっと。
当時の家のまわりをグーグルストリートビューで見てたら、ふと思い出した記憶でした。
コメント
あ、もしかしたら、2年後の転機は知らないうちに
乗ってしまったとか乗せられてしまったとかでは・・・?!(笑)
こんばんは。鏡リュウジと並ぶ、ほんとだったらすごいですよね(笑)。
知らないうちに転機がやってきてたのかなあ。
でもとにかく、20代には二度と戻りたくないです(笑)。
あの頃の仕事は「本当にやりたい仕事」じゃなかったんだけど、今本当に好きな仕事やるにあたって、結構な基礎体力を養えたとも思うんだ。
若い頃の苦労は、なかなか悪くないよ。今だから言えんだけど。当時は予算に届かなくて上司に怒鳴られると「どうやったら毒殺できるか」とか真剣に考えていたからなあ。
「20代に戻りたくない」ってのは、オッサン君がいいオッサンになっているからこそ、出てくる言葉なんだろうねえ!
おお、聖路加タワー、なつかしいな。俺の代理店嫌いは、あの頃の営業ノルマによるトラウマが原因となっているに違いない(笑)。お互い中学生のときからなにも変わってないのに、歳だけはとっていくよなあ。