ライ麦畑の思い出

2003年5月13日
村上春樹訳の『ライ麦畑で捕まえて』が話題だ。原著の『The Catcher in the Rye』は俺が唯一原文で読んだ洋書である。大学の授業でテキストに使われたのだ。ほとんどの授業に出なかった俺が、その授業だけは好きで一回も欠席しなかったのは、先生が実に魅力的なジイさんだったからである。

最初の授業でその人は、昨夜飲み過ぎて帰宅し、怒って出てきた奥さんの顔に玄関先でゲロをぶちまけた、という話をした。それだけで俺はその人が好きになった。

その教師は英米文学の翻訳者として良く知られる人物で、ウィリアム・バロウズやポール・ボウルズ、P・Kディックなどの作品をいくつも訳していたことを後に知るが、そのときは「面白いジイさんだなあ」としか感じなかった。授業でも生徒の訳が文学的かどうかで評価を決めた。正確な直訳よりも気の利いた表現を好んだ。

そして何より授業の合間に挟まれる余談がいつも面白かった。

「昨夜、新大久保を歩いていたら街娼に声をかけられましてね(生徒ひく)。お金がないから断ったんだけど、気をつけないとね。ああいうときに連れて行かれるホテルにはカメラがあるから(生徒笑)。僕らみたいな商売がとくに危ない。英文科でも脅迫されてる先生がいました」

『ライ麦畑』の主人公、ホールデンがそのまま年をとったような不良ジイさんだった。こういうジイさんになれるのなら年をとるのも悪くない、と今でも思う。

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